生徒に「黒髪」を押し付ける学校と、社会が転落していくことの、大きな繋がりについて。

 選挙から一週間が経ちました。金曜日に、大阪の公立高校で、元々髪の毛が黒くない生徒に対して髪を黒く染めるようにくりかえし強要し、それに従っていたところ頭の皮膚がただれるなどしたためにできなくなったのにもかかわらず、学校側が黒く染めることを強要し、文化祭や修学旅行への参加もできなくされたりなどのハラスメントを繰り返されて登校拒否にされた生徒が学校を訴えました。
 このこと、選挙の結果と根本では繋がってないか…という事を、少し考えてみます。

地域社会も一緒になって管理教育を進めて、生徒が無気力に追い込まれた学校。

 この学校の口コミサイトを見ると、非常に校則が厳しく、校則を守らない・守れない人に対してのモラハラとも言えるハラスメントが日常的にあり、しかも、出来ないことを無理強いしたりなど、非常に嫌なものを感じる部分がある訳です。(ただし、半分くらいの口コミはほとんど中身がなく学校は素晴らしいと言ってるので、どうも、そちらの方はその手のステマ業者を学校か大阪府が雇ってるのではないかと疑いたくなりますが)。
懐風館高校(大阪府)の情報(偏差値・口コミなど) | みんなの高校情報

 批判的な口コミを見てると、「校則が厳しく理由のわからないものも多い」「勉強への意欲がなく、学校側も進学に対してサポートがあまり無い」「文化祭等のイベントの規制が厳しく、学校側の要求を呑めない生徒を参加せなかったりする」「学校が汚れていてすさんでる」などの書き込みがあるのですが、これは、日本の縮図なんだな…と思った訳ですよ。

 この手の、理不尽でなおかつ理由もわからずとにかく、生徒を一つの基準で縛り付けてはめようとして、はめられない生徒を徹底的に攻撃する。という管理教育は、1970年代以降進められてきていていることはここでも時折書いてきましたが、兵庫の高校で無理な登校時間規制のために校門に挟まれて殺された生徒が1990年代なかばに出てからは、下火になっていたと思ったのですが、しかし、温存されていた訳ですよ。
 そして、これは5ちゃんねるでちらりと書かれていたことなので信憑性は微妙なのですが、今回の高校の周辺では、「優秀な」卒業生が生徒を監視していて、はみ出るような生徒を見つけたら、学校にクレームというより密告する体制が出来上がってるという話も持ち上がってる。*1
 この学校に入らざるを得なかった生徒たちは、二重三重に監視され・苦しめられ続けてる。

 このような学校や地域社会で、自分から勉強しようとか何かを作り上げよう、自分たちが社会の主役であるんだ。という気概や自覚が出来るわけがないのです。出来るのは、「上が決めたことはめちゃくちゃでも自分を殺すような中身でも、笑顔で喜んで実行できる、ロボットのような人間」でしかない。
 これら管理教育は、「均質で従順な労働者」を無理やり作る為には、一定の効果があったのでしょう。愛知県が先頭に立って過激な管理教育を進めた背景には、トヨタ三菱自動車などへの単純労働者を大量に確保する必要があったという事の影響が指摘されてますし、実際、日本の産業が数を作って売りつけることで成長してる時には、そのような労働者が求められていたのでしょう。
 

「自分を出すな。上の言う事を素直に聞く兵隊こそ求められる」と言い続けた先に…

 話を少し横道にそらします。

 「トランジスタ技術」と言う、電子工学に仕事で関わった人なら、一度は通読するであろう月刊誌があります。この雑誌では毎年四月や五月に新入社員向けの特集が組まれてるのですが、確か1994年か1995年の春に発行されたそれで、どこぞの大企業のそこそこの地位の人がとつとつと技術者の心構えを書いてて、そのなかで「自分を出すな。上の言う事を素直に聞いて実行する兵隊こそ大事なのだ」と書いてて、「そんなこといって、これから日本が優位でも無くなるかも知れないのに何を言ってるんだ」とあきれた記憶があるんですよ。
トランジスタ技術

 当時は、日本の電子産業がイケイケで行っていたのが、会社法の改悪やなんやで暗雲が立ち込め始めてて、技術者のリストラが毎週のように報道されてる時代でした。その中で、クビになった技術者が韓国の会社に非常にいい待遇で雇われ始めてるという噂話も、電機業界の末端にいた私ですら、耳に入り始めていたわけですよ。
 そんな状況では、「言う事を素直に聴いて実行する兵隊」ではどうしょうもない部分が沢山出てくるのが目に見えていたのに、大企業に限らず、私が当時働いてた中小のブラック企業でも、上の人達は似たようなもので、自分たちが決めることは正しい・口答えするな・何か問題が出たらお前が悪いのであって上は悪くない。と言うことが当たり前のこととして共有されてた訳です。
 その会社は、毎月数名辞めては人を入れてるような会社でしたが、大企業は、大企業の正社員という事の価値があるから、なかなか辞めたりしないで、そういう「兵隊」がのさばっていた。

 結果として、日本の電子産業や電機産業は、総崩れになりました。労働者への待遇の悪さと、派遣社員を使い捨てにしすぎた事、それらからくる開発作業のデスマーチ化が当たり前になったこと、そして、著作権のような、ごく一部の人にだけ利益になる利権構造に対して過剰に配慮しすぎたことで、殆どの創造性・イノベーションがなくなり、諸外国の企業にお客をさらわれてしまっただけでなく、そのような「素直に言う事を聞く兵隊こそ必要」と言っていた人達が経営を続けたことで、東芝やシャープや富士通のように誤った経営判断をくりかえしても止める人がいなくなり、新しいことをやる人の足を引っ張ったり、社内の風通しを良くしようという動きを真っ先に潰すことが当たり前になり、皆が保身だけを考えて振る舞い、会社だけでなく、日本社会をも朽ち果てさせていってる。

日本の分断は、「無力感を叩き込まれた大半の人」「自分を勘違いした少数の人」の分断でもある。

 この風土と、管理教育がはびこって、地域社会まで管理教育に関わってしまったことは、実は、「主役になろうとすることを徹底的に抑え込まれ続けて、無力感を叩き込まれた大多数の人」と、「家柄や人脈に恵まれたり、偉い人にお世辞を言う事で偉くなったのを、何でもやれる権利だと勘違いしてしまう、人間として程度の低いごく少数の人」に、日本を分けてしまった・分断させてしまったと思うのです。

 この事は、衆院選参院選でも出てきてるわけですよ。多くの人が「政治に期待してもどうしょうもない」「選挙に行ってもムダ」と無力感を出してるのは、現実社会が大半の人の心を折るような社会を、主に自民党や財界、霞が関地方自治体が主導して作り上げてきたことが、物凄く影響してる訳です。
 今も、自民党が野党の質問時間を全体の3割まで削ろうという話が出て問題になり始めてますが、これも、「勘違いした人々の暴走」「大半の人の心を折る行為」ですが、そのようなことが何をもたらすかと言えば、上の方の無責任によって悪いことが起これば責任と不都合を普通の人達が全部背負いつつ、上の方は責任を取らず、それに下のほうが耐えられなくなっても自殺以外の選択肢が認められないという現状なわけですよ。
 それを、変えていかないと日本という社会が盛り返すことはないのですが、それは「勘違いしてる偉い人達」が変えることは全くない・あるとすれば悪くするためだけだろう。と私は思うのです。

 私達自身が私達自身の手で、変えていくしかないし、そのためには、自分たちの実感として、「何かを変えたことから来る自信」を、私達一人ひとりが取り戻していくしかないと思うのです。
 「水戸黄門」を待ちわびてもしょうがない、私達一人ひとりが水戸黄門となることが出来ないまでも、心ある人達と繋がり、繋がった人同士で又繋がり、身の回りの一つ一つを変えさせていくことから、政治に対しても変化させていくしか、この詰み手も詰み手の日本社会の中で、私達が生き残る方法はないのだと、思うのです。

*1:補足:5ちゃんねる・嫌儲板での今回事件のスレッドでの書き込み( http://leia.5ch.net/test/read.cgi/poverty/1509177563/176 )から。「これ、黒髪拘束を守ったOB、OGが地域で監視活動してるんやで 茶髪が制服着てるの見かけたら即クレームの電話や さらにそんなOBが地元企業の人事担当だったりするんやで 」